第1回

課題 〜商業施設における洗面空間〜

第1回C.H.C.マーベルデザインコンペティションは、課題「商業施設における洗面空間」のもとに実施され、92 年12月25日に締め切られました。今回の応募作品点数は106点を数えました。審査は、93年1月21日に、新建築社にて行われ金賞1点、銀賞2点、銅賞7点が決定しました。表彰式は93年3月9日に東京・六本木の国際文化会館で行われ、式後のパーティーでは、入賞作品を囲んで審査員と入賞者の歓談に花が咲きました。入賞作品の展示会が93年4月21〜30日に日本建築学会展示ホールにて開催されました。

審査委員長・黒川雅之
審査委員・川上元美(プロダクトデザイナー)内田 繁(インテリアデザイナー)石橋利彦(建築家)

金賞(賞金100万円)

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福本 央・朝倉 靖子・小川 武則
東京造形大学造形学部デザイン学科


銀賞(賞金各30万円)

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山田慎一郎/芝浦工業大学大学院

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野口征克/千代田工科芸術専門学校


銅賞(賞金各10万円)

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村井明・宮崎智敬・加々見茂登・遠藤裕行/鉄建建設 設計部)

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瀬川 康秀(アーキショップ)・谷順子(歯科医)・関正晴(明治大学大学院)

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河西立雄(京都府立大学講師/ヴォイス・オブ・アーキテクチュア)

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竹原一平・京都工芸繊維大学/工芸学部造形工学科

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戸田 潤也(戸田潤也建築設計工房)

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金  相珍(金デザイン事務所)

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渡直也・千葉大学工学部工業意匠学科


黒 川 雅 之(審査委員長)

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このコンペの目的は、洗面あるいは便所の空間が持つ意味を問うことにあったと思う。その期待に応えるさまざまな解答を提出された提案を解読し、発見する作業は、われわれ審査員にとっても十分に興奮できる楽しい作業であった。金賞に入った福本央他2名案は、私の期待に直接応えてくれた案であった。洗面すること、排泄することの意味を自然の中での、ひょっとすると原始の時代のその行為を彷彿とさせる原初的なシーンとして提出しているように私は思う。いわば、風景としての洗面空間であり、哲学的でさえある解答が得られたと思っている。
銀賞に選ばれた2点は、金賞の哲学的な提案に対して、ひとつはアイロニカルな文明批評野口征克案、他のひとつは現実的な技術で実現でき誰にも受け入れることのできる内容の中で洗面空間の持つ意味を発見しようとする提案山田慎一郎案であった。
野口案は、自分自身の映像と対面し、自分自身に対して放尿する、あるいは自分自身の恥部を見られる事で、現代人の心的状況を風刺しておりたいへん興味深い一矢であったし、山田案は建築からオーバーハングする空間として設け、内部空間からいったん外部に出るかたちで、空に浮かぶ雲を映したプールに向かって用をたすように設計されている。排泄という個人的な、かつ自然の行為が内に向かうように見せて外へ向かっているところが興味深い。この金銀の3点は、われわれの問いに対して優れた3つの方向を向いたそれぞれ興味深い解答を提出してくれている。

内 田  繁(審 委 員)

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意外に困難な課題だったのだろうと思う。洗面空間におけるアメニティといったつかも難い抽象的な課題は、とっかかりとしては手軽に思うのだが、実際には多くの方向性にまどわされるのである。にも関わらず多くの作品は実に深く考えられていたことに驚きを感じている。排泄をともなう洗面空間は、人間の根元的な問題を考えることになる。その点において精神的、肉体的、経験的な問題を考えることは、ごく自然のことである。さらにそれらは、社会的、文化的、もしくは文明批評な内容へと導かれていく。
特に金賞に輝いた福本案はいきなりデザインの空間へと導かれるのではなく、洗面といった行為の周辺の問題を浮かび上がらせている。ノスタルジックな記憶をもとにしながら、排泄行為の経験的な問題へとふれている。空間デザインとして、どれほどの現実性があるかは疑問だが、洗面空間を考える過程での重要な思考が隠されている。
銀賞を獲得した野口案もやや文明批評的な作品である。今日のテクノロジーを利用して排泄といった行為を疑似化しているのだろう。 今回のコンペで少し残念なのは、器具のデザインに正面から向かったものが少なかったことである。洗面器具は多様な開発がなされているのが実際である。こした機会に独自の発想を期待したのだが。

川 上 元 美(審 委 員)

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水回りの空間が表面に出てき、そのアメニティ性をいわれているとき、タイムリーなコンペであった。審査をしながら、いざ自分で商業空間の1シーンを設定し、どんな方向を見いだすかと考えると、恣意的になるほど、難しいテーマであるなと感じた。行為を哲学的に、エンターテイメント風に、文明への異議申し立て、あるいはリアリティーを持たせた正攻法、とテーマに対する切り込みが多種多様で、頭を切り替えながら意図を理解しようとするが、その具体的まとめで、短絡的にまとまったものが多く見られた。
金賞の福本案は、応募の中に多く見られたとうり一遍の水回り空間から離れ、心象風景といえようか、おおらかな草むらの中での用たしともいえるイメージをつくってみせたところに引きつけるものがあった。出品者は学生とのこと。頭の柔らかさを見せてもらった。銀賞・山田案は正攻法で水回りを思い切って屋上へ持っていき陰陽を逆転させることにより気持の良い空間の創出を試みている。
銀賞・野口案は、文明批評とでもいえるアイロニカルな発想が、特に自分自身をテレビで眺める発想は強烈である。銅賞も含め、学生の若々しいイメージが可能性を示しているように思う。

石 橋 利 彦(審 委 員)

このコンペは、これまで従的な空間として扱われがちだあった洗面空間を主題としたものである。それは住空間のようなオフィス空間や商業空間のような住空間が出現してきたように、建築の用途に対する概念が均質化している状況で、空間自体も主従の序列が失われつつあるからだろう。応募作品は、建築からと機器からのアプローチに分かれ、その多くが水をテーマにしていたが、金賞・福本案はブッシュの茂る草原をイメージした設定で、自然の行為を自然の中で処理するアイデアが抜群であった。銀賞・野口案は、福本案とは対照的に人工的な設定が力強いイラストで表現されている。同じく銀賞の山田案は、便所を建築の外部空間に開放した構成で建築としての完成度も高い。銅賞・河西案は、給水タンクをデザイン要素に組み込み、さらに水で空間を操作し、水を多元的に変化させている。銅賞・村井案は、コアの配置を見直すことで閉鎖的になりがちなビルの洗面空間に開放性持たせている。銅賞・竹原案と金案は機器に対する提案で、金案は楽しいストールを、竹原案は洗面器の器の中だけをデザインしたユニークな提案である。
入賞作品は、どれも洗面空間としての明確な機能に加え、デザイン性の高いものであった。このコンペが建築の意識を変化させていくうえでの重要な位置付けとなることを願っている。